🧭 オープンモデルはトークン量で過半数、なのに収益シェアは4% — Mozilla「State of Open Source AI」を読む
Mozillaが初のState of Open Source AIレポートを公開。OpenRouterの約100兆トークン実測でオープンモデルが過半数、うち中国系が週次45%超。一方で収益はエコシステムの4%しか還流していない。数字の出所と偏りに注意しながら要点を整理する。
2026年7月14日、Mozillaが「The State of Open Source AI」という年次レポートの第1弾を公開した。開発者アンケート(n=1,410)に、OpenRouterを流れた約100兆トークンのルーティング実測、Chatbot Arenaの評価データを重ねた構成で、オープンソースAIの現在地を数字で塗り固めている。Timeやheiseは既に報じたが、日本語圏ではまだ紹介が見当たらないので、数字の出所の注意書きごとまとめておく。
実測が示した2つの逆転
レポートで一番硬い数字は、アンケートではなくOpenRouterの実測側にある。
逆転その1: オープンがトークン量で過半数。2025年末に「3分の1」だったオープンモデルのシェアは、2026年中盤に過半数を超えた。OpenRouterの上位5モデルはすべてオープンだ。GPT-4級の推論コストがこの36ヶ月で50倍下がった($20→$0.40/Mトークン)ことを考えると、価格弾力性が素直に効いた形になる。
逆転その2: その中身は中国系。2026年4月時点で中国系モデルが週次トラフィックの45%超、トップ10の61%を占める。上位の中国系モデル群が処理するトークンは週約18Tで、米国系の約5.5Tに対して3倍超。先週書いたKimi K3やHunyuanの記事の背景が、この数字で一枚につながる。
ただし割り引きがひとつ要る。OpenRouterのユーザーは価格感度が高く、もともとオープン寄りに偏ったサンプルだ。レポートはこの偏りを補正していないので、「世界のAI利用の過半数がオープン」とまでは読めない。「価格で選ぶ層では過半数」が正確な読み方だと思う。
縮まない3.3%と、還流しない96%
Arenaデータでの能力差は平均3.3%。コーディングはほぼ同等で、推論だけ差が残る。面白いのは時系列で、DeepSeek-R1が2025年2月に一時トップ級へ並んだあと、2026年3月には再び3.3ポイント差へ開いた。追いつくが、定着しない。フロンティアは常に逃げ続けている。
そして本レポートの核心はここだ。実利用の3分の1以上を支えるオープンモデルに、エコシステムの収益は4%しか還流していない。本番到達率もクローズド63%対オープン51%で差があり、SlashDataの分析は「足りないのはモデルの品質ではなく、インフラとツーリング」と指摘する。レポートの言葉では、競争軸はモデル層から「エージェンティック・ハーネス」層——運用ツールと信頼の層——へ移った。LM Studio Bionicが「モデルはオープン、ハーネスはクローズド」で批判された構図(先日書いた)は、まさにこの4%の奪い合いです。
Mozillaのポジションも織り込んで読む
発行元がMozillaである点は差し引きたい。Timeのインタビュー見出しは「Rebel Alliance(反乱同盟)を作りたい」で、「オープンは能力で追いついたが金が回っていない」という結論はMozillaの運動方針そのものと一致する。数字の採取は真っ当でも、どの数字を前に出すかには意図がある。
HNの議論も、方法論より解釈で割れていた。刺さったのは「従来のOSSは時間のボランティアで回ったが、オープンモデルはカネのボランティアが要る」という指摘だ。訓練に数千万ドルかかる以上、中国勢のオープン戦略も収益圧力がかかれば閉じうる。今の「過半数」は構造ではなく、誰かが補助金を出し続けている間の均衡かもしれない。
それでも、1年前に「オープンモデルは実用ではおもちゃ」と言えた時代が終わったことだけは、どの数字を取っても動かない。来年のV2.0でトークンシェアと収益シェアの乖離がどちらに動くか——4%が伸びればエコシステムは自立し、縮めば補助金切れの兆候だ。個人的には、ここが2027年のAI業界でいちばん正直な計器になると思っている。