🧮 テレンス・タオ、27年前のJavaアプレット24本をAIで数時間で復活させる — しかもAIが本人の見落としバグを2つ発見
フィールズ賞数学者テレンス・タオが1999年製Javaアプレット群をコーディングエージェントでJavaScriptに移植した。移植バグはわずか1件、逆に元コードの潜在バグをAIが2つ発見。「却下していた構想が数時間で形になる」という彼の総括を読む。
1999年、テレンス・タオはJava 1.0でアプレットを24本ほど書いた。複素解析や線型代数を可視化する教育ツール群だ。その後ブラウザからJavaが追放され、コードは27年間、動かないまま彼のサイトに眠っていた。
2026年7月11日、タオは自分のブログで、それらをコーディングエージェントに食わせてJavaScriptへ移植した顛末を書いている。かかったのは数時間。フィールズ賞数学者の「やってみた」記事として、HNのフロントページに上がっていた。
移植バグ1件、発見されたバグ2件
数字がいちいち面白い。24本の移植で混入したバグは1件。それに対してAIは、27年前の元のコードに潜んでいた未発見のバグを2つ指摘した。差し引きで言えば、移植後のコードは原作より正しい。
書いた本人は世界最高峰の数学者だ。その人が四半世紀気づかなかった欠陥を、移植のついでに拾ってくる。「AIのコードは信用できない」という定型句は、このケースでは向きが逆になっている。古いコードの発掘・移植は、動作仕様が「今動いているもの」として固定されているぶん、生成AIの得意領域のど真ん中なんですよね。要件が曖昧な新規開発より、よほど答え合わせがしやすい。
復活したのはAllen Knutsonと作ったハニカム可視化(1999年)や、ベシコヴィッチ集合のアプレットの改良版など。どれも研究・教育の現役ツールとして再稼働している。
「却下してきた構想」が実行可能になった
もうひとつの見どころは新作のほうだ。タオは特殊相対性理論の可視化ツール——本人いわく「Minkowski時空のためのInkscape」——を今回初めて形にした。構想自体は1999年からあった。作らなかったのは、実装コストが数学者の時間の使い方として見合わなかったからだ。
その判断がひっくり返った、というのが記事の核心だと思う。彼の総括はこうだ。高レベルのコード設計の意思決定は依然として人間側に残る。しかし低レベルの構文と実装の詳細は、もはや大部分が自動化された。結果として「これまで完全に却下していたプロジェクトが、数時間で実行可能な品質のプロトタイプになる」。
タオはAI活用の急先鋒として一貫していて、Leanでの形式証明の大規模プロジェクト(2200万本の代数方程式の含意関係を検証するEquational Theories)を率い、今年3月には「数学・理論物理ではAIが浪費する時間より節約する時間が大きくなった」とまで言っている。今回の記事は、その主張が証明支援だけでなく、日曜大工的なツール実装にも降りてきたという実例報告だ。
「作らない」と決めたものリスト、ありますよね
自分にも「見合わないから却下」したツールの墓場がある。社内用の小さなビジュアライザ、一度きりの変換スクリプトのGUI版、古すぎて動かないデモ。読者のあなたにもあるはずだ。
タオの記事が示しているのは、その墓場の在庫評価が2026年時点で全部間違っているかもしれない、ということだ。実装コストが数時間に落ちたなら、「作る価値があるか」の閾値も一緒に落ちている。27年前のJavaアプレットが午後いっぱいで蘇るなら、あなたの3年前の没案はたぶんもっと軽い。週末に墓場の棚卸しをしてみませんか。私は昔諦めた案件ダッシュボードの構想をひとつ、掘り起こすことにした。